温度調査
調査方法
下の写真をご覧下さい。
この1円玉状の小円盤が「データロガー」という温度測定器です。詳しい仕組みは説明できませんが、このデータロガーに「何時間おきに温度を測定して記録するように」とインプットしますと、最長1年間分くらいの温度を時間ごとに継続して、測定及び記録してくれると言う優れ者なのです。このデータロガーを住宅の温度を調べたい場所数ヶ所に設置させていただき、1年後に回収して、そのデータの分析をしようというわけです。
2000年〜2001年にかけて、第1次調査を行いました。この時は、岡谷のお客様宅(ファースト仕様)と、その比較にとの意味で当社の牛山専務宅の2邸を各数ヶ所、1時間ごとに夏 冬 各3ヶ月にわたって調査を実施させて頂きました。
この時のデータは、資料として利用させてもらっています。
今回調査
今回は、新たに5邸のお客様と、再登場牛山専務宅、計6邸の調査を行いました。調査ヶ所は、邸によって異なりますが、居間 寝室 浴室 玄関 床下等に設置させてもらいました。
「ランニングコストが超低」「快適である」この相反するように思われる2項が同時に実現する住宅と言うのが当社の建物の特長です。この実証の3方法として「ランニングコスト調査」「住まい感アンケート」「データロガー温度調査」をOB客様のご協力を得て行っている次第です。OB客様へ再度のお礼を申し上げます。
先ず報告は、諏訪市Y様宅です。基本事項を表1にまとめました。野菜室と名づけたのは、キッチンから連なる低断熱仕様の倉庫です。パソコンルームは2階階段ホールの一画です。又、軟弱地盤対策のため土間コンクリート下に 発泡スチロールのような材料が施工されており、地熱の利用がややしにくくなっています。
では、グラフをご覧になって下さい。グラフごとに コメントを入れます。
表1、 所在地・・諏訪市、構造・・ツーバイフォー工法、延べ床面積・・48.4坪、Q値・・次世代1地域1.34、暖房・・蓄熱電気暖房 設置ヶ所・・リビング(1F)、野菜室、パソコンルーム(2F)、玄関、浴室、床下、外気温
グラフ1最寒期 1月25日〜30日まで各計測ヶ所4時間ごとの温度です。
1. 外気温の変化に影響を受けず、玄関 リビング パソコンルームの温度が安定しているのが解ります。
2. 浴室は 他居室に比しやや温度が低いが、22:00頃(入浴直後)温度が上がっています。
3. 野菜室は 最寒期 最低温でも0度であり、ギリギリ凍結を心配しないで良い
グラフ2 冬季間 1月1日〜3月31日までの4時間ごとの各部屋温度変化を圧縮したものです。
1.3月になり 外気温が上昇してくると、かえって室温を低くして間に合います。
2. 床下の温度の安定度は驚きです。
グラフ31月1日〜3月31日まで の各計測ヶ所の 平均温度です。
1.玄関 リビング パソコンルーム(2階ホール)は、ほぼ同温度です。玄関が一番暖かいというのも驚きです。
2. 優れた断熱性能の住宅では(作用温度が高くなる為)、18度〜20度の室温で快適に過ごせると言う理論を学習してきましたが、実際のデータが理論を裏付けています。
3. 浴室は熱源が無く,閉切られているため平均温がやや低めです。入浴の際に湯温によって室温が上昇していますが、今後の課題だと思います。
グラフ4 最暑期 7月25日〜30日の各計測ヶ所4時間ごとの温度変化です。
1.外気温が最も高くなる時刻には、室内温度はそれを下回りますが、外気温がもっとも低くなる午前2時頃には、室内の温度は低くなってくれません。昼間は通風による採涼感が有りますが、夜間には期待できないので、何か手段が必要かもしれません。ただし、温度自体は、27〜28度ですから、冷房によって保つ室温とほぼ同温ともいえます。
グラフ5 グラフ4から 1階リビング 2階パソコンルーム 床下 のみをピックアップしたグラフです。
1. 1階と2階では 終日1度位の温度差があります。
2. 床下の温度の安定は、冬季と同様驚きです。
グラフ6 最暑期7月20日〜8月10日間の 午前2時 午後2時の計測温度の平均です。
1. 昼間の室内温度は、1階で27度台、2階で28度台です。2階が屋根の日射で熱せられてと言う現象は発生していません。
グラフ7 このY様宅は、軟弱地盤対策のため、土間床下に断熱施工を行った状態になっています。このY様宅床下と、同様に調査させていただいた地熱利用型基礎断熱のT様宅床下の、月平均温度の1年間を比較してみました。
1. 土間下断熱仕様と、地熱利用仕様は、年間を通じて2度〜3度の温度差がある。即ち 土間下断熱は、冬季有利であり、地熱利用は夏季に有利に働く。
グラフ8 4時間毎に計測した温度を、月ごとに平均して、外気温とリビングの温度差を比較したものです。最大は1月の 23.24度差 最低は、7月の1.62度差ですが、冬は暖房し、夏は窓を開けるので、このような数値になります。
注目していただきたいのは、4.月5月10月です。
家を締め切った状態での、外気温と室内温度の差を「自然温度差」と呼び、年間暖房エネルギーを計算する重 要な数値になります。Y様宅では、4月は半月ほど、10月は下旬わずか暖房をし、5月下旬は窓を開けることも 有ったそうです。そうすると、このお宅の自然温度差は、6.25度〜8.81度の間と考えられます。計算によっ て求めたY様宅自然温度差は、4.9度でありました。計算で求める暖房エネルギーが実消費量より大きいのは、 この数値も原因の一つと考えられます。
グラフ9 午前2時と午後2時の計測温度を、各々月ごとに平均した物の内、リビングと外気温の各、午前、午後2時を グラフにとったものです。外気温の差は、日の最低気温、最高気温の差に近いと思われます。各月とも10 度近くの差が有ります。しかし、リビングでは、1度位の差しかありません。暖房シーズンは、24時間暖 房により夜半の室内温度が下がらないのは、いくつか資料を見た事がありますが、非暖房シーズンも室内 温度が、昼夜1度差位であるというデータは、私ははじめて見ました。
グラフ10 グラフ9の様に、午前2時、午後2時の各月平均を、玄関、リビング、パソコン室(2F)と居室のみでグラフ にしました。見事に各月とも1度位の温度差に、昼夜の差が入っています。昼夜変わらぬ温度で、最低が17 .55度、最高が28.95度、「常初夏の家」というネーミングはどうでしょうか。
Y様宅のまとめ
Y様宅では、冷房は使用しなかったそうです。「夏の夜の寝苦しさも感じなかった」というアンケートの回答 でした。ちなみに、年間の光熱費は、全て電気料で、年間140,165円でした。ご協力に感謝いたします。
続いての報告は、下諏訪町T様宅です。基本事項を表2にまとめました。こちらのお宅では、7〜9月に冷房を ほぼ24時間かけたそうです。夏の温度グラフがたいへん特色あります。
表2
所在地・・下諏訪町、構造・・ツーバイフォー工法、延べ床面積・・33.1坪、Q値・・次世代1地域1.81、暖冷房・・FF+エアコン 設置ヶ所・・リビング(1F)、寝室(2F)、2F南北洋室、床下、外気温
グラフB-1 最寒期 2月2日〜6日まで各計測ヶ所4時間ごとの温度です。
1.熱源が主にリビングのFFストーブなので、リビングの温度が高めです。
2.2階南、北、子供室の温度は、北のほうが安定している。
3. 床下の安定は驚きです。
グラフB-2 1月1日〜3月31日までの、各計測ヶ所の平均温度です。
1. FFストーブの有るリビングは、2階居室に比べ3〜4度ほど高い
2.2F寝室には、エアコンを設置してあり、補助暖房としてわずか使用している為、やや温度が高い
3.2階の室温がやや低く思われ、、「2F北子供室で、うっすらと寒さを感じた時があった」と言うアンケート回答をいただきました。
グラフB-3 最暑期 7月25日〜30日各計測ヶ所 4時間毎の温度です。
1.エアコンの設置されている2F寝室の温度が安定的に低い。
2. 1Fリビングは、カーテンを閉め、2Fのエアコンからの冷気と、床下のクーリング効果によってかなり低めに保たれている。設置されているエアコンは、「6〜9畳用」という最小のもの1台である。
グラフB-4 最暑期 7月20日〜8月10日間の、午前、午後2時の温度の平均です。
1.エアコンの効果で、各部屋ともかなり低めの温度を保っています。
2. 一般に目標とされる室温よりは、低いように思われますが、アンケートに「2階北子供室で寝苦しさを感じたことが有った」との回答をいただき、検討中です。
「下諏訪 T様方」のデータ
グラフを紹介させていただきます。
所在地 :下諏訪町、構造:ツーバイフォー、延べ床面積:33.1坪、Q値=1.81暖冷房:FF+エアコン
設置ヶ所 : リビング(1F) ・寝室(2F)・2F南北洋室・ 床下 ・外気温
グラフA先月号でも触れましたが、「無暖房状態での室内外の温度差」=「自然温度差」のグラフです。
T様方では、11月中旬〜4月中旬が暖房期間、7月中旬〜10月初旬が冷房使用期間でしたので、10月の室内外 温度差を「自然温度差」とみなせます。計算値では7.2度でしたから、約2度ほど現実の方が上回っています。
グラフB:2時14時の月間平均温度、室内外の比較です。外気温の差は「日較差」にほぼ等しいと考え られますが、1月が最小差で、6.5度 3月が最大差で15.2度でした。対してリビングは、最大差が3月の 3.8度、その他の月は1度台の差でした。注意するべき点として、12月〜3月は、リビングでは、夜中の 午前2時の方が平均温度が高くなっているという逆転現象が起こっています。
グラフC:年間の電気料金グラフです。冷房期間の昼間電力料金がアップしているのが見て取れます。
T様宅まとめ:諏訪地方では珍しく、夏期間に終日冷房を行ったという事でした。年間の光熱費は、 電気料134,673円 灯油消費 約600L(27,000円) 合計161,673円/年 とのデータをいただきました。ご協力に感謝します。
続いて、町田市M様宅です。基本事項を表にまとめました。諏訪地方から見れば温暖地とも 思える町田市、(次世代省エネ基準 4地域)に次世代省エネ1地域対応の住宅を持ち込む と一体どんな温度環境が生まれるのでしょうか。
所在地:東京都町田市、構造:ツーバイフォー、延べ床面積:40.1坪、Q値=1.59、暖冷房:エアコン2台 設置ヶ所 : 外気温 ・1F寝室・1F玄関・ 浴室 ・2Fリビング・リビング外壁面
グラフD最寒期5日間各ポイント4時間ごとの温度です。
外気温はさすがに諏訪に比べれば、7〜8度高い
2階のリビング温度が他居室に比べてやや高い(夜は、2Fのエアコンのみ稼動の為)
グラフE冬期3ヶ月の各部屋平均温度です。浴室、寝室(1F)、玄関は、ほぼ無暖房状態、 2Fリビングのエアコンが熱源になっているそうです。浴室にも熱源は無く、閉め切られてい るので、諏訪では、居室よりやや低い平均温度なのですが、気温が高いせいでしょうか、寝室と 同等の温度になっています
グラフF最暑期7月25日から5日間の各部屋4時間おきのデータです。
リビング(2F)のエアコンは24h稼動ですが、寝室(1F)のエアコンは、「お子さんの昼寝とか にたまに使うだけだそうです。1Fに地熱のクーリング効果が現れている事が読み取れます。また、 エアコン(8畳用)が2台有れば、この地域でも全館冷房が簡単に行えると言えます。
グラフG夏期3ヶ月間の各部屋平均温度です。夜も昼も平均していますから、外気温より リビングの温度が高くなっていますが、グラフFの折れ線を見てもらえば実際がわかります。
リビングのエアコンは、24h稼動と言っても温度設定をしてあるので、夜はあまり働かない のです。1F寝室、玄関の温度が低いのは、地熱利用のクーリング効果と、2Fのエアコンに よる冷熱が下った為と考えられます。
グラフH2004年の年間電気料グラフです。M様方では、音楽教室を開いていますので、普通の 住宅より、昼の電力使用量が多いのですが、夏期間のエアコンによる電気料のアップは、あまり 表れていません。ちなみに年間の電気料合計は、183,590円(太陽光発電を塔載していますので、 実際の支払いは139,013円 のデータをいただいています。
次に当社の牛山専務宅を主体に報告します。牛山宅以外に、第1回登場の諏訪市Y様宅、昨年6月より調査をお願いしている富士見のH様宅の3宅を比較しながらコメントしたいと思います。3宅の概要を表1に記しました。
牛山専務宅は、築13年になるツーバイフォー住宅です。建築を行ったのは、専務と私が以前勤めていた建設会社です。当時としては、諏訪地域で最初の本格的な「高気密高断熱住宅」であったと思います。サッシは、樹脂サッシを1部使用し、(当時は驚くほど高価だったのです。)主には、外アルミ、内樹脂の2重サッシ、を用いました。
まだLOWーEガラスという用語を知っている建築業者がまれであった時代です。断熱は、グラスウールの吹き込み工法。これは、床、壁に網ネットを張って、その間に細かく攪拌したグラスウールを吹き込むと言う仕掛けのものです。何分過酷な作業であり、職人が敬遠しまして、実は、かくいう私(小川)が主任作業者として、吹込みを行っていました。そんな訳で、私にとってもたいへん思い出深い建物であるのです。ちなみに基礎断熱工法は、北海道においてやっと実用化された段階でありました。
グラフ1
グラフ1最寒期1月25日から29日まで5日間の各部屋4時間ごとの温度変化です。H邸では、夕方薪ストーブをつけ、10〜11時頃オキの状態で消えるがままにし、朝6時頃FFをタイマーで点けるそうです。牛山邸では、1,2階にFFストーブが有るのですが、夜半はストーブを止めているそうです。室内温度が外気温の影響を受けているのが読み取れます。対してY邸は夜間に蓄放熱を同時に行いますので、外気温の影響をほぼ受けません。
グラフ2
グラフ22月の各部屋平均温度と一番温度の高い部屋との温度差のグラフです。Y邸は蓄熱暖房器が各部屋に有り、「熱源の分散、」が行われていますので、各部屋の温度差は、1度以下です。H邸、牛山邸は、熱源が1つなので、各部屋の温度差が発生していますが、H邸では、快適の基準とされる3度差以内に収まっています。又H邸の1階リビングは、吹き抜け下部の事ですから、吹き抜けの上下で1.8度の温度差というのは好成績であると思います。又平均温度が高いのは、薪ストーブの放熱量が必要量に対して大きすぎるためだと思われます。牛山邸は、平均温度が低いのが気になります。「結露する」と言う事ですが、窓性能に加えて、温度が低めなのも影響しています。部屋の温度差4度は、基準をややオーバーしています。
グラフ3
グラフ3いわゆる「自然温度差」(無暖房状態で、屋内外に生じる温度差)のグラフです。10月の外気温、リビングの温度差を「自然温度差」とみなしてよいと思います。
Y邸は、「夏の暑さ対策」を第一に考え、南面にも「高遮熱ガラス」を使用しています。対してH邸は、南に軒、ベランダがあるので、3シーズンの日射取得をねらって、南面にLOW-Eガラスを使用しました。牛山邸もかなり高い数値です。これは、南面が普通ガラスであり、日射透過率がさらに高いためと考えられます。
表2
各部屋、時間ごとの温度差は少なければそれに越した事はないのでしょうが、許容範囲であれば、良しとしてよいと思います。お寝み中などは、温度がやや低い方がすごしやすいと言う方も大勢居られるように思います。個人差も有りますので、ご自分に適した温度環境を調整できるシステムかどうかが大事だと思います。
「各部屋、各時間の温度差は、断熱性能より暖房システムによる影響が大きい」と言う事は、以前からよく言われていました。暖房システムを充実させると、住宅性能をそれほど引き上げずとも快適な温度環境が作れる。さてそうなりますと、「何のためにそれほど高断熱化するのか?」と言う疑問がわきます。その答えが表2です。「答え=ランニングコストが違います
H邸は、太陽光発電が塔載されていますので、それをマイナスしますと年間の光熱費が13万円ほどになります。Y様宅も、H様宅もこの様な温度環境を48坪維持するのに13〜14万円でまかなえたと言う事なのです。
先日 ある建設会社(高気密高断熱住宅を得意とする)がオール電化、40坪位3〜4人家族で「年間光熱費21万円」と言う実績を宣伝していました。一般的には「年間21万円」は十分宣伝に値すると言う事が、牛山専務宅の年間光熱費を見るとよくよく理解できます。(ちなみに小川宅は、これより2万円ほど余分にかかっています)
最後に
住まい感アンケートにご回答頂いた快適性を、実際の温度データで実証したい」という思いで、この調査が行われました。頂いたデータはまさしく宝の山なのですが、「データの分析に鋭さがない」と言うのは、書いている本人が一番自覚しています。もっといろいろな角度から検討を繰り返し資料にまとめたいと考えています。4ヶ月のお付き合い有難うございました。
尚、このデータロガーを紹介していただき、かつ初回調査のモニターを引き受けていただいた今井寛様にこの場を借りて深くお礼申し上げます。